Vol.3 子どものころの遊び場が森だった

トヨタ三重宮川山林のフォレストチャレンジ3人目のご紹介は、吉川和人さん。

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トヨタ三重宮川山林のフォレストチャレンジ3人目のご紹介は、吉川和人さん。

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写真:吉川さんのInstagramより

吉川和人
Kazuto Yoshikawa

福島県出身
慶応義塾大学商学部卒業
株式会社カッシーナ・イクスシーにて勤務
在職中に一年間の育児休暇を取得と同時に渡仏
2012年に同社を退社
岐阜県立森林文化アカデミーにて木工技術の基礎と日本の森林文化を学ぶ
現在は東京で制作活動中

職業 -木作家- Woodworker

吉川さんは、東京をベースに木工作品や家具などを製作し、展覧会を開催する他、国内外のレストランやショップなどから受注生産しています。最近は学校や公共施設からの依頼も増えてきているそうです。

吉川さんに職業を伺ってみると、

「アーティストというより職人の方がどちらかというと自分らしい気がしているんです。でも、木工職人と言ってしまうと、他の職人さんたちのような技術はないと思っているので、そのあたりをうまく表現できる言葉はないかなと考えていました。そんなとき、海外では木に携わる人たちのことを、ごく一般的に『ウッドワーカー Woodworker』と呼んでいることに気づき、自分にしっくりくるように思いました。日本語に訳すと木工職人となるかもしれませんね。僕は『木作家』という方が近いかな?と思っています。」

と、言葉を選びながら、優しい口調で丁寧に話してくれました。

チャレンジのための2つの軸

吉川さんは「トヨタ三重宮川山林フォレストチャレンジ」に取り組む上で、2つの軸を打ち立てました。

1、ものづくりの楽しさを伝える教育的なワークショップ。

2、地元の企業と連携して大台町発の商品開発をすること。

チャレンジを始めてから吉川さんは、三重大学のサテライト授業や三重県立昴学園高等学校(以下、昴学園)でワークショップを開始しました。また、地元の木に携わる方々や企業と連携して新たな商品を企画製作し始めています。

1、ものづくりの楽しさを伝える教育的なワークショップ

11月24日に開催された「トヨタフォレストチャレンジフェス2018」では、ものづくりの楽しさを知ってもらうために「森のバターナイフ作り」のワークショップと、「斧とナイフで生木から作るスプーン」のデモンストレーションを企画しました。
re-2489ワークショップで使用する木材は、トヨタ三重宮川山林内で伐採され板に挽いた後数年乾燥させてあったウラジロガシ。カシは硬い木ですが、その分先端まで薄く削っても欠けたり折れたりしにくく、小さな木工作品を作るのに適しているそうです。

バターナイフの大まかな形までは吉川さんが準備していました。それを使って参加者の皆さんが完成させていきます。re-2487吉川さんは普段からワークショップを開催していますが、今回参加者の皆さんが使用する道具は全てその時にも使用している、プロの木工職人さんたちの道具です。

吉川さん:「道具」は体の延長なんです。

自分の道具を自分で作る、ということの楽しさを感じて欲しいと思っています。道具は体の延長であり、自分の指先の代わりを作っているとも言えます。用を為すということはもちろんですが、作られている背景や、愛着を持って長く使いたいと思える道具と共に生活することの豊かさを考える機会になってくれればいいなと思っています。

ただ、一番は「自分でもこんなに素敵なものができてしまった」、「こんなことで自分は楽しさを感じられるんだ」という驚きと発見だと思ってます。完成後「あしたの朝トーストを食べるのが今から楽しみだ。」と言ってもらえるととても嬉しいです。


2、大台町発の商品開発をすること

三重額椽は、昭和21年(1946年)に創業した、大台町の老舗額縁メーカーです。本社工場を三重県大台町に置き、材料の手配から全ての製作工程を1拠点にて行っている稀有なメーカーで、古くから額縁の素材として世界中で使われ信頼性の高い「木製」にこだわって額縁を1点1点手作りで製作しています。

吉川さんとのコラボレーションで、トヨタ三重宮川山林のヒノキを使ってアートフレームを製作しました。美術愛好者のみが見る絵画用のフレームに、誰もが毎日見る鏡をはめ込むというのが吉川さんのアイデアです。額縁の新たな利用価値と販路を広げることを視野に入れています。構造はフレームに鏡をはめ込むだけなので簡単にできるそうです。

ヒノキそのものの美しい年輪を生かしたアートフレームです。節も全くありません。吉川さんのこだわりで着色せず素地を生かしています。1点1点丁寧に手作りする額縁の総合メーカー三重額椽さんだからこそ、吉川さんのこだわりにも機敏に対応し、長年培われた職人の技術によって美しいフレームができ上がりました。

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吉川さん:最近額縁はプラスチック製のものなどが多くなってきましたが、三重額椽さんは額縁メーカーさんでありながら木製品に精通していて、ここまで仕上げにこだわってくださるのはとても嬉しいです。

素地のものは汚れやすく傷も付きやすくて管理が難しいです。生産者側の理由によって流通されにくくなっています。しかし昔は素地のままのものもたくさん流通していました。

素地は白木とも言われます。昔は白木の文化があって防水のために漆を塗ることがありましたが、今でも神道の道具は白木のままのものが多いと思います。汚れますがそれもまた良い味わいになっていくでしょう。今は便利な工業塗装ができて着色することで木目が見えなくなっています。香りや肌触りより見た目の均一性が好まれるような時代になり、素地のものがどんどん無くなっていきました。素地のものは自分で手入れができるのもいいところで、表面を削るとまた色も香りも戻ってくるんですよ。

僕は素地が好きなんです。理由を説明するのは難しいですが、美しいと感じますしそれが脳内に直接的に届いて全身に共鳴するように思います。

節をあえて残した作品も作っていこうと思っています。

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吉川さんが額に入った鏡を壁に飾っていると、三重額椽の社長、山本茂正さんが様子を見に来てくださいました。山本さんは高校に入ると同時に上京し、大学卒業後は三重額椽の東京営業所で勤務。7年ほど前に大台町へ戻ってきたそうです。

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山本社長が「素地がいいねえ」と言うと、吉川さんも顔全体をほころばせて「素地がいいですよね」と言う。山本さんは以前吉川さんが勤めていた家具メーカーの社長さんをご存知だとのことで「東京にいた頃に出会えていたらと思うけど、今こうして大台町で出会えたのも何かのご縁かもしれませんね。」と楽しそうに話していました。

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吉川さんはこの後もずっと準備を続け、夜が更けても鏡の入ったフレームの留め金の位置をずらして壁に展示する位置を調整し続けていました。

トヨタフォレストチャレンジフェス2018

11月24日土曜日
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いよいよ「トヨタフォレストチャレンジフェス2018」当日。吉川さんのワークショップには午前と午後の部両方とも定員いっぱいのご応募がありました。午前の部も午後の部も、地元大台町を始め、三重県内や名古屋市からも参加してくださいました。

re-2525吉川さんのお手伝いをしてくれたのは、昴学園2年生のうめちゃんとめがちゃんの2人です。

参加された方々は、まず怪我などをしないように手と道具をどこに置き、どう動かすのかなどを丁寧に教えてもらった後、早速バターナイフづくりに挑戦しました。

ウラジロガシが硬いので、小刀で少しずつ面を削っていき、自分の手に馴染む形に仕上げていきます。小刀で大まかに形成したら、次は南京かんなで削って表面を滑らかにしていきます。

木工はスポーツ

吉川さん:それぞれの道具が得意な加工を組み合わせながら木工作品としての一つの完成形を目指すわけですが、やはりそれぞれ道具には使い方にコツがあって、自分の筋力だけでなく、道具の一番いいパフォーマンス引き出すのも一つの楽しみだと思っています。

また、木工は作業というよりスポーツのような感覚もあります。同時に小さな彫刻でもあり、何に美しさを感じるのか、線の流れやバランスがどんな時に自分にしっくりくるのか、そんな発見をして欲しいと思ってます。

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参加した方々は普段から木材を扱う仕事をしていたり農業だったりと職業は様々。昴高校の生徒さんや木工ははじめてという方もいましたが、吉川さんの丁寧な説明で小刀や南京かんなの使い方に慣れ、道具を使う楽しさに触れ、世界に1つの自分だけのバターナイフを作っていきました。

普段仕事でヒノキを主に扱っている方は、「仕事で自分が木工をすることはないのですが、道具が使いやすく楽しくて、気づくと無心になって集中していました。ヒノキは柔らかいですがカシは硬いので、こうした小さな木工作品を作るのに向いているんですね。」と、感心した様子で興味深そうに話していました。

アートフレームと鏡

三重額椽とのコラボレーション企画、アートフレームの鏡も、同じ部屋の中に展示されました。トヨタ三重宮川山林のヒノキを使った大小のフレームの鏡が、今回のために三重額椽が製作したものです。また、その他のフレームは、もともと三重額椽にあったものも使用して鏡をはめ込んでいます。

絵画用のフレームらしく、フレームの長辺を横にして壁に掛けてあるのが印象的です。海外では鏡を横長に掛けているのをたまに見かけますが、日本ではこうして鏡を横長にして壁に掛けているのをあまり見かけないように思います。鏡を横長に飾ると、そこに写ったもの全てが絵画のようにも見えて不思議な感じもします。こうして鏡を部屋に飾るのも素敵ですね。
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仕上げは大台町産、生搾り『えごま油』

実は大台町は数年前からえごまの油を積極的に生産し始めました。できるだけ農薬を使わず、真夏の草取りもみんなで協力して行い、えごまの実を取る時も皮むきも昔ながらの方法で手作業で行い、丁寧に搾って純度の高いえごま油を生産しています。

実は吉川さんは仕上げ用のえごま油を用意していましたが、せっかくだからと、地元大台町のえごま油を仕上げに使うことにしました。

木工作品の仕上げに油を刷り込むのは木を保護することが目的で、一般的に様々な油が使用されていますが、吉川さんは、肌に触れたり口に入れたりすることもあることや、より自然なものを使いたいと最近はえごま油を気に入って使っているんだそうです。
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実はこの日参加してくださった方の中に、大台町でえごまを栽培している農家さんがいらっしゃいました。下の写真のご夫婦です。re-2673

吉川さん:エゴマ油を仕上げに使うのですが、今回は現地で買ったものを使いましたら、たまたま生産者の方がワークショップの参加者でいらっしゃってびっくりしました。東京ではまずありえないことです。また皆さん、木の性質にも詳しく、自然、材料、人がまだまだ直接のつながりを持った地域なんだなと思いました。

形ができあがったら紙やすりで整えて少し乾燥させた後、もう一度紙やすりで整えて、最後にえごま油を塗って、また少し乾燥させて完成です。

吉川さん:ワークショップは以前からライフワークとして行なっています。自分が会社勤めをしていた時代に木工をしたいと思っても、プロから気軽に教えてもらえる場所がなかったことが始めたきっかけです。

また、自然とつながる「直接性」や自分の手を動かした力と軌道のみが作品の形に移し込まれる「身体性」などが、クリック一つでいろんなことが自動で動く時代に、かえっておもしろいのではないかと思っています。

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屋外からチェーンソーの音が!

実は、第1回のブログでもご紹介しました、西村浩幸さんと象鯨のみなさんが、トヨタフォレストチャレンジフェス2018のために奥伊勢フォレストピアに集合して、屋外でデモンストレーションをし始めました。

トヨタフォレストチャレンジフェス2018では、ワークショップやデモンストレーション以外に、3人のチャレンジャーによるプレゼンテーションも行われました。

会場に集まった町長や副町長、地元企業や住民の方々が集って行われたプレゼンテーションは、真剣な中にも笑いありの楽しいものになりました。

その内容は、この次のブログでご紹介しますね。

それでは、吉川さんのご紹介へと戻ります。

斧とナイフで生木から作るスプーン

吉川さんはプレゼンテーションが終わるとすぐにデモンストレーションをはじめました。

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吉川さん:生木を使って木工する作業は、みずみずしい木の生命感が匂いや触り心地からも直接感じられ、作品の完成度を求める作業ではなく、普段使わない五感が刺激され、行為自体にリフレッシュする要素があると思います。

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吉川さん:みんなに木工作家になってほしいと思っているわけでないんです。自分の身の回りに生えてる雑木と言われるような薪になるような木から、ものすごく美しい道具が自分で作れるという体験をしてほしくて、それを伝えたいと思っています。自然の材料に触るということは発想のヒントになると思っています。

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吉川さんは他にも大台町の木工職人さんと三重額椽さんと協働して「箱膳」を作る企画も進めています。これは大台町のスギとヒノキが「箱膳」を作ることに向いていることと、自分のものを管理することを学ぶのに「箱膳」が適しているためです。食事が終わって椀や皿を箱の中に片付けたら「箱膳」の蓋の部分をテーブルにして使うこともできます。機能的でかつ教育的な「道具」である「箱膳」を通して、子どもたちが文化や歴史を学んだり、大人にもインテリアとしても楽しんでもらえることを期待してるそうです。

ワークショップ午後の部

吉川さんは午後からも疲れを見せずに、道具を安全に使うことから使い方や道具の機能のことを参加者のみなさんに丁寧に伝えていきました。

参加された方々の感想

「カシの木は硬いけど、その分少しずつ加工すると変わっていく形を見て細かい作業をすることの楽しさを知りました。」

「普段特殊伐採の仕事をしていて、切った木をそのまま廃材にしてしまうことが多いから、少しでもその木を活用して施主さんの思い出に残るようなものを作ってあげたいなと思っていたところいい機会だと思って参加しました。結構技術のいる仕事になりそうなので、まだできるか分かりませんが、今日はとてもためになりました。」

「小さな木工作品1つを作るのにこんなにも力がいるし時間もかかっていて大変なんだなってわかったら、作者の愛情も感じられるような気がしました。自分も愛情込めて作りたいと思いました。」

「無心になれました。」

参加者してくれた昴学園の生徒さんは「今日実はお父さんの誕生日なんです。」と、嬉しそうに教えてくれました。「愛情を込めて作りました。お父さんへお誕生日のプレゼントにします。」と話す顔がとても輝いていました。

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吉川さん:これからの課題は「持続性」だと思います。「採算性」と大きく関わってきますが、思い込みを捨て、いろんな可能性にトライしてみることで、まだ見えてない価値や需要を喚起できればと思っています。

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