Vol.1 象鯨と彫刻家 西村浩幸

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「ゾウゲイやってます。」
トヨタ三重宮川山林・フォレストチャレンジのチャレンジャーの一人、彫刻家の西村さんに初めてお会いした時、そう自己紹介されました。

「ゾウゲイ?」「造芸?」

彫刻家と聞いていたので、きっと カタチ とか Creation とか 創造 とか、そうゆうところから名前が来ているのかな?と思ったら、「陸上で一番大きな動物のゾウ(象)と海の中で一番大きな生き物のクジラ(鯨)で、象鯨(ゾウゲイ)です。」とのこと。

最初の印象は、ゾウとクジラだった西村さん。少し話すだけでするりと聞き手の心に入り込んで、捉えて離さない魅力がありました。

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西村さん「僕ね、頭悪いんですよ。本当は獣医学を受けてたんですよ。でも、現役と一浪と、二回受けたけど受からなくて、予備校の先生に絶対無理って言われたんですよ。頑張れじゃなくて、絶対無理ですよー。そしたら友達が、偏差値低い国立大学あるぞ!って言うんで、どこや?って聞いたら、東京藝大っていうとこや。って言うんで、俺、ピアノでけへんわ。って言ったら、美術もあるって言われて、美術もっと嫌いやねんけどーー。って言ったら、お前贅沢言うてる場合か。入れる大学ないぞ!って言われて、それで美大に入るための予備校に行って、それからもう一回一浪して、それで入ったんです。僕、美術嫌いなんですよ。」

関西弁で面白おかしく話す西村さんの語り口調は、どこからが本当でどこからが冗談か分からないけど、西村さんの周りは魅力的なもので溢れています。

ある日西村さんから「大磯のゾウゲイのすぐそばのギャラリーで個展を開きますんで、見に来てください。」と連絡が入り、一度この目で作品を見てみたいと思っていた私は、ギャラリーへ向いました。せっかくなので、その前に「ゾウゲイ」にも寄らせていただきました。

ここは日本ですよね?閑静な住宅街の中に佇む「ゾウゲイ」は、私のどんなイメージも覆し、まるで古いフランス映画に出てくるような夢のような建物でした。この白い建物は、全体のほんの一部なんです。

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おじゃましまーす。玄関を開けると出迎えてくれたのは、西村さんと、美しい西村さんの奥様、エリーザ嘉代子さん。日本人の彫刻家であり画家のお父様とイタリア人の芸術家のお母様の間に生まれ、ご自身も東京藝術大学工学科で鍛金を専攻し、現在シルバーアクセサリー作家。お二人と一緒にお話させていただいている間、私は全く夢見心地で舞い上がっていました。

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ゾウゲイとは、「象鯨という名のもとに集まった志の高い芸術家集団のことなんです。東京都内の美大出身者で、第一線で活躍している芸術家たちで構成されています。良い仕事をしているがチャンスが訪れていない芸術家の支援もしています。」

西村さん「僕たちは傷の舐め合いをしない団体なので、コケたやつのことは放おっておきます。コケた奴を待ってたらお前もコケるで。っていつも言っています。友達関係は同じレベルを保っていないと成り立たないので、友達が欲しいなら自分もレベルを上げていかなければいけないんです。この団体は強い子が多いから、強くいないと負けてしまう。変なことをすると馬鹿にされるんです。そうゆう関係を保つことができてるのが象鯨なんです。だから、弱ってる時は来にくいんです。笑) 僕が一番いい加減なんで一番怒られてますけど。」

そしてもう一つのゾウゲイは、象鯨美術学院美大を目指す学生のための予備校で、現在OB・OGたちが様々な業界の第一線で活躍しています。

西村さん「OBたちのほうが僕よりしっかりしていますよ。僕はOBたちに助けられてやっていけてるわけなんです。」

「今日も何人か生徒がいますよ。」と案内してくれたエリーザ嘉代子さんに付いていくと、生徒さんたちがアトリエでデッサン中。

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みなさん真剣にデッサンに向き合っていて、私語は全くありません。

西村さん「僕は考えない人間になっていくことに疑問を持ってるんです。なんでも考えて、疑問が浮かんだら何でも声に出せる教育が大切だと思っています。」

西村さん「僕は、うちの予備校を卒業したOBたちに対していつも思ってるところがあるんです。彼らにとって、僕が彫刻家としてある程度ポジションを維持していないと悪いと思っているんです。やっぱりみんな僕のことを慕ってくれてますし、みんなヘボいやつに付いて行きたくないでしょ?ある意味では僕はいつも押されててケツ叩かれてるってことなんですけど。彫刻家としてのポジションを守り続けなければいけないから真剣ですよ。たまに賞とか取るとOBたちが、ああ西村先生、案外偉いんだなとか、賞取らんとあいつら逃げていくぞ、とかね。笑)いつも戦々恐々としてるんですよ。お手本にならんといかんと思ってるんです。

だから車でもそうですけど、なんでもない車に乗っちゃいけないって思ってるんです。大きなトラックに乗らないとね。カヌーとかサーフィンとかも無理やりしてるんですよ。笑」

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西村さんの車は大きなトラック。彫刻用の木材を運ぶのに役に立つけど、どこにいても目立つのが玉にキズと語る西村さんの顔は、どこか嬉しそう。

西村さんが制作する彫刻には大きく分けて2種類あります。

1つは、「使える彫刻」、そして、もう1つは「使えない彫刻」。使える彫刻を彫刻家具と呼んでいます。

西村さん「彫刻には時間と金を惜しまないんです。でも、彫刻家具には時間と金を惜しむんです。彫刻家具はさっさと仕事しないと値段が上がっちゃうんです。笑)でもね、彫刻家具は、周りから彫刻ができないから家具やってるんだって言われるんですよ。だから彫刻から大きく逸れることはできないんです。」

「失敗したって思うことなんてしょっちゅうなんです。制作の段階で失敗は必ずあって、次にもっと良くなるためには絶対に必要な過程に過ぎないんです。」

さて、象鯨美術学院アトリエの2階に上がっていくと、そこはエリーザ嘉代子さんのアトリエになっていました。

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「ここでシルバーアクセサリーを作っています。」と話すエリーザ嘉代子さん。窓からは緑を通して入ってくる木漏れ日がとても気持ちいい明るい落ち着くアトリエでした。

エリーザ嘉代子さん「実はここは私の母がアトリエにしていた場所なんです。その後を私が使っています。私の両親が作品を作っていた場所で、今私達が制作したり美大の予備校をしたりしているんです。」

「だからここは『世代工房』っていう名前なんです。私の両親が住んでアトリエとしても使っていた所を引き継ぎ、アトリエ、美術学院、そして、ギャラリーとして使っています。」

『世代工房』は、象鯨の作品が生まれ発信されるだけでなく、美大に通うことを夢見て『象鯨美術学院』に通う学生さんたちから、『象鯨美術学院』を卒業していったOBやOGたちも集まってくる場所です。エリーザ嘉代子さんのご両親の作品や画集も常にそばにあって、世代を超えてこの場所が、美術を愛してやまない人たちの集まる『場所』になり、もしかしたらそれが西村さんの作品にも大きな影響を与えているのかもしれません。

エリーザ嘉代子さんは、ご両親が芸術家で著書や画集などもたくさんあることから、それらをエピソードを交えながら丁寧に教えてくれました。

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このギャラリーとして使われている部屋のステンドグラスは、実はエリーザ嘉代子さんのお母さんの素描を元にデザインされていて、ステンドグラス作家さんに協力してもらって制作したものなんだそうです。

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エリーザ嘉代子さん「母は60代半ばに亡くなったんです。母は油をしていました。パリに留学して彫刻家オシップ・ザッキン教室に入ったんですけど、その教室で日本から留学してきた父に出会いました。その後卒業して母がイタリアに帰る時、父も一緒にイタリアに渡って結婚しました。そして私が生まれて、その後日本に引っ越してくるわけなんですけど、母が亡くなった後に遺品を整理してたら、いろんな切れ端に素描が描いてあるのが見つかって。それらを集めてステンドグラスにしてもらったんです。」

「母はカトリックなので、カトリック的な素描をたくさん描いていました。そういったモチーフの素描を集めて作ったんです。ササッと描く線がとても美しい、デッサンの上手な人でした。父も彫刻家でしたが裸婦スケッチをたくさんしていました。基本は裸婦スケッチにあると言っていて、裸婦スケッチを1000点描いて展覧会をしたこともありました。」

ご両親をこよなく愛し尊敬するエリーザ嘉代子さんの気持ちがいっぱい伝わってきました。

いろいろなお話を当時の時代背景も交えながら伺っていたら、あっという間に数時間経っていました。そこで象鯨の展覧会が開催されているギャラリー今古今さんへ行くことにしました。

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△ 今古今
神奈川県中郡大磯町大磯55

彫刻家である西村さんは、作品制作のためのエクササイズの一つが人物クロッキーである、と話します。人体の新鮮な象(カタチ)に当たることで、客観的な美しい形を発見できるのだそうです。

西村さんの作品は、ケヤキやカシなどの広葉樹が主に使われています。

西村さんが最初に木と出会ったのは、湯河原に住んだ時でした。当時バブル景気で、温泉旅館が続けざまに建て替えなどで壊されて、その廃材が山のように毎日トラックで運ばれていました。それらの木を使って彫刻作品を制作し始めたのが木との出会いだったんだそうです。その後は、街路樹や庭木が大きくなり過ぎて切られたりすると、それらを利用して作品を作っています。

今回は、フォレストチャレンジの要となる三重宮川山林のヒノキで作品を制作し、早速展覧会に出品していました。西村さんはそれらの彫刻家具を、宮川象鯨彫刻家具と名付けています。

宮川象鯨彫刻家具をリビングルームに置いてみると、ギャラリーで見るのとはまた違った趣があります。

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彫刻家具自体、力があるのにも関わらず、壁や床を四方八方に這う直角な線を柔らかくしてくれているように感じます。ヒノキの明るい木肌の色そのままを生かしているので、黒い大きなソファーがあっても部屋が重くなりませんね。伝統的な職人の技を大切にしているミーリー工房のペルシャ絨毯との相性もバッチリです。

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△ guadixの丘のおじさん
H43cm ✕ W31cm ✕ D30cm
宮川象鯨彫刻家具・檜

西村さん「彫刻家具はネットなどからご注文もできますが、同じものが二度とできないので、展覧会や象鯨で実物を見てからご購入されることをお薦めしています。ネットやカタログを見ただけの場合は、注文が入ったら制作しますが、割れ方もあるし、思ったのと違うことがありますので、気に入らなかったら買わなくていいよと言っています。でも、みなさん買ってくれてますけどね。笑」お問合せは象鯨まで。

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宮川彫刻家具の底には、トヨタ山林の木である証の焼印が。

ほぼ等間隔に並ぶ年輪の美しさから、間伐で日当たりの良くなった空間で、適正に管理されてきた大きなヒノキだったことがわかります。

三重県大台町には一級河川の宮川が流れています。

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△ 一級河川 宮川(三重県大台町)

宮川はこれまで何度も「水質が最も良好な河川」に選ばれてきました。伊勢神宮へと流れる宮川の流域に広がる杉と檜の山々。トヨタ三重宮川山林はまさにこのような場所にあります。

杉や檜の葉に降り注いだ雨が、枝を伝い、幹を流れ、土に染込み、張り巡らされた根を縫い宮川となる。 神の川宮川を産み出している杉檜を使って宮川象鯨彫刻家具は作られます。

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△(左)海に行く日
H44cm ✕ W32cm ✕ D32cm
宮川象鯨彫刻家具・檜

△(右)糸巻き
H45cm ✕ W31cm ✕ D24cm
宮川象鯨彫刻家具・檜

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△ guadixの丘のお姉さん
H45cm ✕ W35cm ✕ D45cm
宮川象鯨彫刻家具・檜

西村さん「僕は休みはいらないんです。何もしない日は一日もありません。」

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「色んな仕事してるし、中学や高校でも教えてるし、象鯨もあるしね。夜はリビングでパソコン夜中の二時、三時までしてるんですよ。で、空いてる日は真鶴のアトリエで制作もするし。でも、サラーリーマンと同じように決まった時間に何処かに行くとかはないので、人からはゆっくりしてるように見えるかもしれませんけどね。休みなんか無くても楽しければ良いんです。人からはスローライフとか言われますし、娘もたまに家に来ると、『相変わらずスローライフしてるなあっ!』って怒るんですよ。でも休み無くて忙しくても楽しいから良いんじゃないかなって思ってるんです。」

「僕はね、こんな家に住んでるけど、ここは嫁さんの実家で、僕はお金ないんですよ。笑)うちの生徒が面白いこと言うんです。『先生、貧乏だけどなんか楽しそう。スローライフや。絶対、西村先生に習いたい。だって、その生活スタイルがいいから。』とかね。そうするとね、親御さんにも言われるんです。『息子が先生のことを、なんか楽しそう。って言うんです』って。」

「そんなにみんなにスローライフとかライフスタイルがいいとか言われても、『僕お金ないですよ』って言うんですけど、『でも、お金あっても楽しくなかったらしゃーないです。』って言われるんで、『いやー、僕はお金欲しいです。』って言ってるんです。笑)お金欲しくないなんて全然思ってないですからね。笑)まあ、でも実際楽しいんでね、楽しげに見えるのは良いかなあって思ってるんですけどね。」

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エリーザ嘉代子さん「私も家にいたら絶対何かすることがあります。出かけない限り、何もせずにぼーっとするなんてことは全くありません。アトリエで制作することもありますし、いつも誰か来たりしますし、予備校もあります。もし私が嫌って言ったら、この生活はおしまいになっちゃうかもしれないけど、でも、私も楽しいんです。仕事も遊びも含めて忙しいから。笑」

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